暴力シーンがあります。
ベジータはサイコ野郎です。善人ベジータが好きな方は読まないでください。



「王子、もうお体は大丈夫なんですか!?」
実に一週間ぶりに見る健康そうな少年の姿に、二人の忠臣は安堵の息をつく。
少年はどっかりと椅子に座ると部下を見やることはなく、ただふうと息を吐いた。

「くそったれが…俺としたことが油断してたぜ。…あれからどのくらい経ったんだ?」
「一週間です。」
「一週間…。」
部下の言葉を聞き少年の表情が曇る。如何にも不快である、という色が少年の顔には浮かんでいた。
こんな時にはヘタに言葉を投げかけない方が良い。
そう分かっている二人の忠臣は無事でよかったなどの言葉をかけ、紅茶と少し離れたテーブルから菓子を持ってきて少年に差し出した。
別に喜びの色を面に出すわけでもなく、少年は無言で菓子を口へと運ぶ。少年はいつもよりゆっくりと、味わうように菓子を咀嚼した。

「ったくだいたい厨房がサボったからこんなことになったんだ…。まあもう処分されたみたいですけどね。」
「当然だ。毒見をサボるなんざありえねえ話だぜ。」
何年もこんなことなかったから油断していた俺も俺だが、と呟き菓子を噛み砕きカップを口に運ぶ。

王子、もといベジータは先日食事中に倒れ今日までの一週間、医務室で集中治療をされていた。
何者かがベジータ暗殺を謀り、食事に毒を混入させていたのだ。
軍では第五分隊以上の戦闘員に出される食事は毒見を徹底しているのだが、
やはり厨房班もそのような面倒なことはしたくないようで(またそれにより命を落としたくないため)最近はそれをしていなかったようだ。
そのおかげで今回ベジータが倒れたことにより、第四分隊厨房班のほとんどの人員は処刑されることとなった。

今回倒れたとはいうものの、実際ベジータは一時期生死の境を彷徨っていた。
強烈な毒物だったので、如何に丈夫なサイヤ人といえども危機的状況だったのだ。
いつも通り、ナッパ、ラディッツとともに食事をしていたため、すぐに治療に取り掛かることができたのが幸いだった。
サイヤ人という軍内では異端な民族であり、性格の悪さ諸々の理由でベジータは昔から命を狙われることが多かった。
頻繁に暗殺を企てられたあの頃とは違って今では軍内でベジータを殺そうとする者は、いや、殺せるものは簡単には現れない。
彼より実力が上のものはいるが、彼らがベジータを特別に殺そうとする理由はないのだ。

「あ…そういえば王子、快復したらフリーザ様が部屋に来るようにって言ってましたよ。」
「フリーザの野郎が…?」
どうせくだらねえ仕事でも注文してくるんだろ。ぶつぶつと文句を言いながらカップの中の紅茶を飲み干す。
はあ、と溜め息をついてベジータはフリーザの部屋へと向かった。


戻ってきたのは僅か十分後のことだった。
ナッパとラディッツは脅えて待っていたが部屋に入ってきたベジータの表情を窺う限り、そこまで嫌な仕事を依頼されたなどという様子ではなかった。
「王子、おかえりなさい。フリーザ様は何の用だったんです?」
ラディッツが声をかけるとベジータは表情を崩すこともなく、椅子に腰かけて言った。
「体調がよくなって良かったです、とかそんな感じの話だった。」
ちなみに一週間ぐらいは遠征もないそうだ、と付け足すと二人の部下は安心したように少し息をついた。
ベジータが大丈夫だと言い張っても、二人としてはもう少し休んでもらいたかったところだったので、遠征がしばらくないということには安心したのだ。

「それと…、」
目を細めてベジータは続けた。
「犯人が分かったから貴方に差し上げます、だとよ。」
「犯人って、今回のですかい!?」
ナッパが怒りから声を荒げる。ラディッツも驚いたような表情を浮かべ、やがてその顔には暗い色が宿る。
二人からすれば自分たちの主人であるベジータをこのような目にあわせた犯人をなんとしても突き止め、制裁を加えてやらねば気が済まなかったのだ。
「どうする?今から行くか?」
背凭れに体重をかけ、少し笑いながらベジータは言った。
返事はもちろん、分かっている。


軍内には様々な種族の者がいるが、その中でもほとんど見かけない異種族だ。
窓はない。かなり暗い部屋だ。その中でそんな異種族の一人の男が床に蹲り、咳きこんでいる。
口からは血と涎とが零れ、体をガタガタと震わせている。
何か言葉を発しようとすると、二人の大男に蹴られ、殴られた。
男は蹲りながらひいひいと何事かを言おうと必死になっている。周りの三人の男たちは、
その男が発しようとしているそれが、赦しを乞う言葉だと分かっている。だから、言わせない。赦すはずがないからだ。

「まだだ。」
一番体格のいい大男は、その男の髪を掴み上を向かせる。脅えの色が浮かぶ目には涙をため、
口からは小さく悲鳴のような声が漏れた。その口が開かれる前に大男は顔面を殴りつけた。
床に倒れる男に追い打ちをかけるように二人の男が暴行を加える。

軍内の人物ならば、このような光景を見てもなんとも思わないことだろう。ここは、そういう場所だ。
それでもこの三人の男たちのやり方には、少なからず恐怖を感じる者が軍内にも多かった。
軍内の戦闘員たちはほぼ全員が、敵に対して残酷である。だがその中でもこの三人は、いや、特におぞましい行為を
平然とやってのけるのは一番小さい男だった。この少年は軍の戦闘員の中でも一、二を争う異常性格者だった。
すぐには殺さない。じわり、じわりと、少しずつ、殺していく。

二人の大男にいたぶられ、異種族の男はぐったりと倒れこんでいた。意識を飛ばすことも許されない。ただ、苦痛を受け続けるだけ。
やがてそんな男の姿を見て、小さな男がゆっくりと腰をあげた。

「痛いか?痛いよなあ?」
少年はくすりと笑って、男の手を踏みつけた。そのままその足に力を込めると、手からはバキバキと骨が折れる音が響いた。
男は痛みに悲鳴をあげる。やめて、ゆるして、と泣きながら男は懇願し、少年は今度は膝を踏みつけ、膝の皿を割る。
男の口からはもはや悲鳴しか聞こえない。その声を聞いて少年は楽しそうに目を細めた。
「テメエのせいで一週間も寝たきり生活を強いられて、たまったもんじゃなかったぜ…。
全くテメエなあ、つまんねえことしてくれたなあ。でも俺が死ななくて残念だったな?もっと量を増やせばよかったかもしれねえなあ。」
そう言って胸の近くを踏みつける。アバラが折れる音が響く。その音を少しでも長く楽しむように、少しずつ。

男がベジータを殺そうとした理由は、怨みからだった。この異種族の男は以前ベジータ達が侵略し滅ぼした星に住んでいた種族だ。
極々少数のみが捕虜として軍に連れてこられ、下働きをさせられている。
男は見ていた、同胞たちを無惨に殺すこの少年を。少年は笑っていた。殺戮を楽しむ少年を、男は狂人と感じた。
そしてずっと怨みに思っていた。同胞たちを殺したこの少年を、なんとかして殺すことができないかと。
そんな中、ダメもとで食事に毒を仕込んだら、成功。
…したかと思われたが。

少年は男の髪を引っ掴むと、だらしなく開いた口に小さな瓶から何かを注いだ。
「どうだ?味は。俺も味わったんだ、お前も味わえよ。美味いだろう?」
男は目を白黒させたが、やがて少年に口を閉ざされたためにその液体を飲み込んだ。その後に手を離されると、男は床に突っ伏した。
程なくして男はうわあああ、とも、ぎゃあああ、ともつかない叫び声をあげはじめた。
じたばたと暴れもがき、のたうち回るその姿は陸にあげられた魚のようだった。
「なかなかの味だろう?俺も苦労したぜ。俺も吐いて吐いて、それでも吐いて…大変だったんだ。」
クスクスと笑って少年は、瓶を顔の横で小さく振って見せびらかす。男はのたうちまわり、体をビクビクと痙攣させて大量の血を吐いていた。
「なあ…欲しいか?コレ。」
そう言って少年が取り出したのは、先ほどよりも小さな瓶に入った液体。
表面のラベルには内容物の名称が書いてあり、それを何とか解読すると男は必死に手を伸ばし始めた。
「欲しい?欲しいかコレ、欲しいのか?そうだよ解毒薬だよ、欲しいのか?ええ?」
男は言葉を必死に紡ごうとしながらガクガクと震える手を伸ばす。目はギョロリと見開かれ、口からは涎と血とがダラダラと垂れている。

「ア、ア、ア、欲しい、くれ!頼む頼む!!何でもするからああア、アア」
「聞こえねえなあ〜〜〜?なんだって〜?もう一回、大きな声で言ってみろよ。」
「く、くれよよこせって言ってんだろーーーー!!はやくそれよこせーーーーー!!!」
「誰がテメエなんかにやるかよバ〜〜〜〜〜カ!!!」

少年は突然声を大きく張り上げると手から瓶を離し、それを踏みつけた。瓶が割れ、中の液体が溢れだす。
飛び散った破片を踏みつけ粉々にしながら男を見下す。男は手を伸ばすこともできなくなったのか、
髪やら喉もとやらを掻き毟りながら床をのたうち回った。
たすけて、たすけてと泣きわめきながら苦しみもがく姿を見て、とても愉快なものだったのか、少年はゲラゲラと笑いだした。
「おお、おおお?どうしたんだあ〜〜?さっきまで寄こせとか生意気な口利いてやがっただろ〜〜?
薬はあるぜ、ここに。飲んでみろよ飲んでみろよ〜〜〜〜!!!」
もはや言葉を発することもできずにビクビクと痙攣を繰り返す男に、少年はブーツでジャリジャリと割れた瓶の破片を踏みつぶして見せた。

少年はずっと笑いながら男の様子を眺めていたが、やがて男はピクリとも動かなくなった。
すると少年はピタリと笑うのをやめ、はあ、と溜め息をついた。

「つまんねえ…。」

ゴミを片づけとけ、と部下二人に指示をして少年は部屋を出て行った。


忠臣二人が、近年異常なまでに狂っていく王子に、恐怖と哀しみを感じていることを王子は、知らない。


2014.01.06